『あゝ上野駅』の発車メロディとともに帰宅を急ぐ大勢の会社員を乗せた宇都宮線が出ていくと、入れ替わりに北斗星が推進運転で入線してきた。
最後尾の貫通式ドアを開け、そこに乗務員がしゃがんで線路の安全確認をしながら、牽引するEF510形電気機関車に押されるかたちでバックで入って来るのである。ここが上野駅という北の起点だということを意識させる。駅構内に機回し線がないので、こういう方法を取るわけだ。シビレる光景である。
B寝台の客室に入る。シングルベッドが平行に配置された完全な個室だ。通路とベッドがカーテンで仕切られた開放式寝台も気分なのだが、きわめてナイーブなウエノとしてはやはり個室タイプを選んだ。
ただし、全寝台が個室のカシオペアとは違って、部屋にトイレと洗面所は付いていない。こちらは共同である。
定刻通り北斗星は出発した。夜のとばりが下りようとする都会と明るい車内に満員の乗客を乗せた在来線が擦れ違うのを窓越しに眺める。こちらは寝台の上で脚を投げ出し、缶ビールを開け、デパ地下で仕入れてきた焼き鳥を頬張っている。大いなる優越感を覚える。
ワンカップの日本酒に替えて駅弁をつつく。
電気機関車は都会を離れていき、外は闇が深くなる。その闇を見つめつつ、空いたワンカップをコップ代わりにしてニッカウヰスキーのシングルモルトをちびちび啜る。
いつもそうだが、夜汽車に乗ると寂しい思いがする。豊かだが、寂しい時間が流れる。
次第に瞼が重くなってくる。
洗面所で歯を磨き、就寝。
しかし、深い睡眠ではない。揺れもあるし、軌道を走る音もする。しかしなにより、もったいなくて眠りたくないのだ。
3時に近くなると、僕はむくりと起き上がり、客室を出て、最後尾へと向かう。途中、食堂車の脇を抜け、長い長い11両の客車のいちばん後ろまで行く。
青森駅に近づくと、薄闇の中で小豆色の電気機関車が待っているのが見える。青森駅で、この青函トンネル用のED79形電気機関車を最後尾に連結し、北斗星はスイッチバックのように方向転換して函館駅を目指すのだ。
青森駅で客車のドアは開かず、ホームには出られない。ウエノは最後尾の(ここからはいちばん前になる)車両の中から、その連結場面を見物しようと移動してきたわけだ。
