*月*日
今年も年末の旅行の日になってしまった。萩、津和野から北九州まで回る。下関のフグを食べて温泉に入ろうというわけだ。
夜には宿で年賀状を書く。そして、もちろん常にゲラのことを考えているのである。
冬至に日本海を眺めながら露天風呂に浸かる。雪のちらつく鉛色(なまりいろ)の空は、しかし、高いところでは薄青い晴れ間も覗いている。ドラマ『夢千代日記』で見た山陰の空である。
*月*日
翌朝は萩の町で、古い丸型ポストに書いた年賀状を投函する。
その後、1977年の松竹映画『八つ墓村』のロケ地となった日本最大規模といわれる鍾乳洞・秋芳洞(あきよしどう)を見学する。「祟(たた)りじゃ〜」が当時流行語にもなった、あの映画を久しぶりに観たくなった。もちろん仕事場にある棚のBDコレクションに入っている。
関門海峡を渡って、夕暮の門司港をそぞろ歩き、ライトアップされた洋館を眺める。レトロ地区に建つタワーマンションの最上部は展望台になっていて、そこから関門海峡に浮かぶ巌流島を眺めることができる。御存じ武蔵と小次郎の決闘の舞台である。
実は3月に刊行される小説は、『宮本武蔵』をモチーフとしていて、因縁を感じる。
その晩泊ったホテルからはテーマパークのイルミネーションが眺められ、花火まで打ち上げられてクリスマス気分が味わえた。
帰路、羽田空港から乗ったリムジンバスからも東京タワーのクリスマスライトアップが見えた。今年ももう残すところ数日である。
22時過ぎに帰宅して、萩かまぼこをつまみにウイスキーの水割りを飲む。関東の蒸すかまぼこと異なり、焼き上げる萩かまぼこは、ピートの埃っぽい香りのするスコッチに合う。
明朝は、萩焼の工房で買った急須(きゅうす)で茶を淹れるのが楽しみだ。