味噌カツのことをさいしょに知ったのは、向田邦子のエッセイだった。
「八丁味噌にミリンと砂糖を加え煮立たせたものを、揚げたてのカツにかけただけだが、油のしつこさを味噌が殺して、ご飯ともよく合う。これぞ餡パンに匹敵する日本式大発明、いまに日本中を席巻するぞ」と彼女はほめている。
この文章を読んで以来、かの地におもむくようなことがあれば、ぜひとも――と思っていた。
念願かなって口にした味噌カツは、けれど想像していたような味ではなかった。
僕はトンカツが大好きだけれど、ぶっかけられた味噌ソースが、みょうに甘ったるくて、これじゃあ、せっかくのカツがだいなしだよォ、と思ったものだ。
そのとき帰りに、駅まで乗ったタクシーの若い運転手さんが、偶然に東京の出身だったので、「名古屋ってどういうところですか?」と、こちらにきてからの印象をきいてみた。
「そうですね、食いもののまずい町ですね」というのが、そのこたえだったのだ。
そんなこともあって、こういう過剰な味つけは、東京もんのあっちの舌になじまねえんでえ、ときめてかかっていたところがある。
