僕の東京は、まん真ん中の都心を下町のほうから眺める景色の距離感である。
僕は東京都内で生まれて育ったけれど、自分の住んでいるところを東京だとは思っていなかった。ごみごみと小さな工場ばかりが建てこんだ町を、なんだか恥ずかしいようにも感じたことがある。
映画を観に行ったり、買物に出かけるのも浅草か、せいぜいが上野。自分の家の物干し台から遥かに見える高層ビルの建つ新宿や名前しか聞いたことのない澁谷はとても遠いところだった。
じっさいに原宿を訪れたのだって、小学校の高学年になって明治神宮をお参りする祖母について行ったのがはじめてだった。
僕にとって“東京”とは、テレビで観る『太陽にほえろ!』の街で、それは遥か遠くにあるものだった。