この打席5球目を松井が打って三塁まえにボテボテのゴロが転がった。僕のペダルをこぐ速度がさらにはやまる。ボールがファールラインの外にそれ、安堵のため息をついた。心肺機能に揺さぶりがかけられ、どうにも有酸素運動向きではない。
さきほどの守備で、抜ければツーベースという左中間の当たりを好補し、シングルヒットにおさえたことで、きょうが本拠地デビューとなる松井はヤンキースタジアムの観客からスタンディングオベーションを受けていた。だが、このチャンスをゲッツーでつぶしでもすれば、口うるさい客たちから、どんなブーイングが浴びせられることか。
ここはメジャー流に3ボール−2ストライクとカウントしよう。松井は顎を日本でプレーしていたときとおなじようにクイ、クイと一塁方向に動かしながらボールを待っている。
僕はエアロバイクの負荷と画面から伝わる緊張で心臓がバクバクだ。
真ん中に入ってきたボールを松井が強振した。打球は暮れなずむニューヨークの街を背景に高く美しいアーチを描き、伝統と威厳ある“聖地”のスタンドに飛び込んだ。
文句なしの当たり!
グランドスラム!!
サドルのうえで、僕も高々と手を上げていた。わけのわからないことを口走りながら。
ベースを1周し、いったんベンチに戻った松井が――きっと誰かにそうするように言われたのだろう――すこし照れて緊張したようにふたたび姿をあらわし、さっとヘルメットを上げてスタンドの声援にこたえる。
僕はヤンキースタジアムの観客といっしょに拍手を送っていた。なんと久しく松井の満塁ホームランを見ていなかったことか。日本では、こうした場面でなかなか勝負してくれるものではない。
けっきょく7−3でヤンキースが勝利をおさめた試合終了後、ベンチまえでNHKの放送席からのインタビューにこたえる松井の表情は、淡々としているというよりもすこしばかり悲しげに見えた。前日、季節はずれの大雪が降ったニューヨークの宵が寒過ぎたのかもしれないし、あるいはきょうのゲームが終わってしまったことが寂しかったのかもしれない。
