奥に入ってゆくと、そこは象たちの寝室である。3頭の象は放飼場にいるので、いまはがらんとしている。巨大なガレージといった空間で、なかはきれいに掃除されていた。
僕らが立つ、鋼鉄の格子のまえのコンクリートの床には黄色いペンキでラインが引かれている。その間3メートルくらい。
この線は、駅のホームにあるものとおなじである。線の内側で電車をお待ちくださいの印である。黄色のラインの向こう側はデンジャラスゾーンだ。象が寝室にいる時には、飼育係のひとたちはラインの向こうに足を踏み入れない。長い鼻は時として脅威である。
寝室は象1頭分ごとに仕切られているが、いちばん左端の囲いだけは格子の間隔が狭くなっている。オスのラスクマルの部屋である。
鼻が出せないようにそうなっているのだ。格子の下方に四角い穴が開いていて、エサや水はそこから鼻を出してとるようになっている。
階段をのぼって、上方からオリのなかを見下ろす。
天井には、病に倒れた場合に象のからだを牽引する仕掛けがある。象はその巨体で自らの内臓を圧迫してしまうのだ。
ラスクマルの寝室の床だけが傷だらけであるのに気がついた。
ラスクマルは側頭腺からの分泌物が見られる。それは思春期の証しだった。ラスクマルは夜ごとコンクリの床を牙でごりごりと引っ掻いているのだ。これは青春の悩みの傷あとである。
バックヤードツアーを終え、広場で弁当を広げた。鶏の唐揚げをつまみ、グリンピースご飯を頬張る。
ゆで卵の殻を割っていたら、ウグイスの声が聞こえた。
午後はアフリカの熱帯雨林ゾーンにいるオカピを見に行こう。
