カウンターの向こうに美しく並べられていた野菜たちが、天ぷらとなってつぎつぎにあらわれる。
折敷の上には、箸休めに小鉢に入ったモズク(これがとても細いのだが、歯ざわりがいい)があるのみ。あとは天つゆと薬味の大根おろしだけだ。
このお店で食べるのは天ぷらだけなのだ。あたりまえの話だけど。
その天ぷらも、素材の持ち味がわかるようで、塩だけで食べるのがいい。合間に、天つゆやレモンで食べるのがアクセントだ。
大根おろしも、天つゆに入れたりせず、ちょいとしょう油をかけてつまみにする。大根おろしも、レモンも、頃合いを見てお店のひとが新しいのとかえてくれる。
野菜の合間に江戸前のキスが出る。それから、北海道宍道湖でとれたという白魚が大葉に巻かれて出た。この白魚が口のなかでとろけた。ちょっと白子みたいな感じである。
まさに山のアワビとでもいったぶりぶりとした岩手の原木シイタケを味わうと、コースが〆くくられてあとはご飯とシジミの赤だしになるという。
そこで、ご飯のおかずにかき揚げを追加することにした。こんなにたくさんの天ぷらを食べているのに、すこしももたれないのが不思議だ。
アオヤギの柱のかき揚げを天つゆにさっと浸し、ご飯にのせてかき揚げ丼に仕立てた。いつも口にしているのとはわけがちがう高級かき揚げ丼だ。
さて、ここに至ってサツマイモの登場である。町の惣菜屋で売ってるような衣がたっぷりついたイモ天とはわけがちがう。さっき見た巨大なサツマイモを大きく円筒に切ってじっくり揚げた一品だ。
食べると、上品な甘味の、天ぷらというよりも焼き芋に近い風味だった。
千葉県香取郡の農家で特別につくっているサツマイモとのこと。
「このお芋がとれなかったり、なくなってしまったら、どうするんです?」とご主人にきいてみた。すると、「なくなったら、終わり」とのこたえが返ってきた。なるほど。
厨房に並んだ野菜がすべて天ぷらになったことでなくなると、ガラス製の盾がひとつなにげなく置かれていることに気がついた。
ミシュランガイドの2つ★評価の盾だった。
高級気分を引きずったまま、帝国ホテルのラウンジに立ち寄り、皇居の緑を眺めつつアードベックをすする。
