拙著『ふれあい散歩 じんわりほのぼのエッセイ』(郵研社刊)で、JR上毛高原駅のすぐ裏手に広がる〈月夜野ほたるの里〉に行った時のことを書いている。すこし長くなるが、本の宣伝も兼ねて引用することにする。
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森の遊歩道に入ると、ひとびとはホタルを驚かせないために懐中電灯を消した。それで、あたりは漆黒の闇にかわった。さっきまでふざけ合っていた子どもたちもおとなしくなった。時々またたく雷光が崖下の田んぼの水面を仄(ほの)かに照らし出す。そこからカエルの声がわき立つように聞こえていた。
森のなかからむせかえるような栗の花のにおいがただよってくる。底には小川が流れているらしい。その深い闇の奥を、蒼(あお)いちいさな灯が、すーっと糸を引きつつ通り過ぎていった。ひとびとの間に静かなさざ波が走った――ホタル。
蒼い光は、歩いている僕らをどこかに導くように追い越したり、まえを横切ったりした。やがて、光がスズランのように連なって明滅する、幻想的なホタルの里に行き着いた。
上毛高原で見たホタルはひっそりとした情感のあるホタルの里だった。
一方、こちら辰野はといえば、まさにカーニバルとでもいったムードだった。
木陰にひとつ、ふたつ、と出没しはじめた光は、夜のとばりが下りるにしたがい楕円形に歩道が取り囲んだ巨大なステージのような窪地にわき上がるように数を増していった。
それとともに、人出もものすごい。
大勢のギャラリーに見つめられ、その数6000匹というホタルたちは、たいまつの炎(ほむら)のごとく空高く舞い上がり、やがて満天の星になった。