Yの“憧れ”の道行き。美しい瀬戸内海を眺めつつ散在する島々を縫う観光道路を走る。たしかに素晴らしい景観がつづく。その一方、どこかで朝飯を食べようと、新たな島に入るたびに民宿や定食屋をさがすが、開いてる店がない。
埠頭に置いた縁台でごろごろしながら話をしているオジサンたちがいた。Yが車を近づけて、
「このあたりで朝ご飯を食べさせてくれるところはありませんか?」と声をかけた。みな、どこかの民宿の主のようだったが、
「おまえのとこで、食べさせてやれば」といった感じで、きわめて消極的である。あげくは、この先の小学校の向かいに喫茶店があるからと、すこぶる商売気がない。
こちらも瀬戸内まできて、喫茶店のモーニングサービスなど利用するつもりはなかった。新鮮な魚介で炊きたてのご飯といきたいものだ。
大三島に入り、海岸線をしばらく走る。と、ついにノレンの出ている店を見つけた。民宿に併設された食堂で、駐車場にレンタカーを乗り入れると、開いたままのやり戸の向こうに客の姿はないが、厨房で仕出し弁当の支度をしているお店のひとの姿が見えた。
車から下りたYは、〔刺身定食〕のノボリを横眼で見やり、
「おかわりすんなよ」
と命令口調で僕に言った。
「このあと、讃岐うどんを食うんだからよ」
刺身定食を2人前注文する。むちむちとしたタイの歯ごたえが素晴らしかった。大根のつまが太めであるのも素朴で好ましい。素朴といえばじゃこののった木綿豆腐の味わいもそうだった。白味噌をつかった味噌汁に、西の国にいることを感じた。ご飯がうまいのは、米を炊く水がうまいからだろう。そうなのだ、我われは磯の香をかぎながらこんな朝飯が食いたかったのだ。
「さあ、つぎはうどんだ。そのまえに温泉だな」
地図を眺めながらYが言って、石鎚山のサービスエリアから連続している温泉施設に車を乗り入れた。
眺望の素晴らしい露天風呂に浸かる。あんまり気分がよいので、
「こうやって、おまえといっしょに仕事ができてよかったと思ってるよ」
と思わず僕は言った。
「バカじゃねえの」
とYが言った。どうやら人並みに照れているらしかった。

わたくしの挿絵は、まるでファミコンゲームのようなクッキリハッキリしたドット絵で、ああ当時はこれがマイブームだったなあと、懐かしく思い出します。
本作のつづきとなる(中編)も、バックナンバーページから、または以下のリンクから、ひきつづきどうぞお楽しみください。
上野亭板長ふじたでした。
第83回『讃岐うどんをめぐる冒険(中編)』を読む