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ぴー吉 上野 歩 / イ  第53回『西洋建築を見にゆく』・・・P3

挿絵  明治学院記念館のとがった塔屋を横目に眺めつつ白金方面へ。
 すると、どーんとあらわれましたよ、国立公衆衛生所が!
 もう、いきなりだもの。
 こうやって不用意に見えちゃうのが、いちばんグッとくるんだなあ。
 なんでもない町並みのなかに、すんごい違和感をともなって巨大な茶色の物件がちらちら見え隠れしてる。これって、ゴジラなんかとおなじようなものだよな。
 うーん、どうしても全景が見たいよー。しかし、門のわきには守衛室がある。
 これまでも、建物見たさにいろいろなところに忍び込んできた。挙動不審な僕は、鎌倉病院では看護婦さんに呼び止められ、湘南の松下政経塾では守衛さんに捕まったっけ。
 ここはやっぱしもぐり込むしかないだろうなあ。
 ところが、この日、守衛室にはだれもいなかった。そのかわりに建築計画の張り紙が……。
 おずおずと侵入し、物件の正面へ。
 デカい。まるで巌窟王の城のような、赤茶色の、切り立った、けわしい断崖のような建物である。
 僕は子どものころから医者や病院がきらいである。
 けれど、建物については、病院系の建築物に心ひかれるのである。
 きっとコワイもの見たさのような気持ちが心のどこかではたらいているのかもしれない。
 古い病院建築には、致命的に血と死のにおいが染みついている。
 しかし、いま、その正面玄関からは、段ボール箱がつぎつぎと運び出されてくるではないか。
 さきほどの建築計画は、この建物の取り壊しを告げるものであった。
 僕は、いままさに死に絶えようとする怪物のようなこの建物を見上げた。そうして、壁からはがれ落ちたらしい、表面にひっかかれたように縦の筋がついたスクラッチ・タイルを1枚見つけると、記念に持ち帰ることにした。

 この日最後に訪れたのは、東京都庭園美術館だった。
 かつて皇族の屋敷であったアール・デコ様式の瀟洒な邸内を見てまわる。
 ふんだんに陽がさし込む、市松模様の床が美しいベランダの椅子にすわり、こことは対照的な、さきほど見た国立公衆衛生所の悪夢のような建物に思いをめぐらせていた。

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