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ぴー吉 上野 歩 / イ  第84回『讃岐うどんをめぐる冒険(後編)』・・・P3

挿絵  讃岐うどんを堪能した僕らは、もう1軒、温泉につかることにした。1530万年まえに巨大隕石が落下し、そこから温泉が湧き出たというクレーター温泉である。
 YはそこにKを呼び出した。
 だが、なかなか仕事の切りがつかないのか、Kはやってこない。
 僕は中庭のベンチで涼んだりしながら、巨大な一枚岩を彫った湯船に入ったり出たりを繰り返していた。しかし、どうにものぼせてしまい、Yにひと声かけ、上がって待つことにした。
 そしたら、脱衣場で、やってきたばかりのKと出くわした。Kは(8月だったので)半袖のワイシャツにネクタイを締めている。僕はタオルを1枚持ってるだけで、すっぽんぽんだった。
 10年以上会っていない友人と再会するときに全裸であるというのは、なんとなく恥ずかしい(相手が着衣である場合には特に)ものである。
 Kも加わって、3人で露天風呂に浸かった。Kはものの20分もいただろうか、その後、親族と鮨屋で食事する予定があるとのことで帰っていった。
「いっしょに行くか、ご馳走するよ」
 とKに誘われ、Yはほとんどその気になっていた。僕もぐらりと心が揺れた。しかし、そうなれば、四国で1泊ということになるのだろう。けれど、僕はどうしてもその日のうちに東京にもどりたかったので、後ろ髪(ないけど)を引かれるような思いでKの誘いをことわった。
 Yが運転するレンタカーで瀬戸大橋を渡る。
「また来ようぜ。こんどは香川で仕事つくってな。そしたらKといっしょに飲もう」
 ハンドルを握りながらYが言った。
 瀬戸大橋から眺める黄昏の光景は雄大だった。
「おれは、はじめて瀬戸大橋を渡ったとき、感動で涙が出たぜ。つくづくどえらいものをつくったもんだと思ってな」
 涙こそ出なかったが、瀬戸大橋を渡りながら僕もわくわくするような昂揚と、人類であることのなにか誇らしさみたいなものを感じていた。
 岡山からのぞみに乗る。Yは、貧乏なもの書きの僕にグリーン車をおごってくれた。そうして、車内販売の缶ビールとミニボトルのウィスキーをしこたま飲みながら東京にもどってきた。
 じつを言うと、東京にもどってからも、銀座でもう1軒飲んだ。

『讃岐うどんをめぐる冒険』―完―

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