やがて、目的地の哲学堂公園に行きついた。
東洋大学を創立した井上円了(いのうえ・えんりょう)という仏教哲学者が、哲学堂(孔子、釈迦、カント、ソクラテスをまつる四聖堂)を建立したのがその起源となる公園である。
なかに入ってみると、想像していたよりもずっと広かった。野球場やテニスコート、弓道場などの運動施設もあり、大江戸線の中井駅から西武新宿線の中井駅へと向かうときに渡った妙正寺川の流れがここまで追いかけてきて園内を分断している。
春には桜の名所でもあるそうだが、哲学堂公園の見どころは、なんといっても“妖怪博士”とうたわれた妖怪学の権威・円了が諸所に設えた摩訶不思議なオブジェにある。
顔のまえをうるさく舞い飛ぶ羽虫を手で追い払いながら、森にかこまれた石段をのぼってゆくと、丘の頂のぽっかりとした空間に出る。そこには、哲学堂の起源となった四聖堂のほか、宇宙館、絶対城といった辛気くさい(失礼!)建物が点在している。なかでも、黒い瓦屋根がのった赤塗りの六角の塔に眼がひきつけられた。これなんか、ほとんど横溝正史の世界である。塔のまえには〔六賢臺(ろっけんだい)〕という木の立て札があった。
哲学の場らしく、あちこちで一升瓶からついだコップ酒をなめつつ、大勢のご年輩の哲学者たちが縁台将棋をさしている。だが、潤滑油のほうをすこしばかり過ごされてしまったようで、将棋盤をまえにとろけたようになっている方もいる。ちょっと離れたところにある陽だまりのベンチに太り肉の真っ白な猫が寝そべり、透徹した表情で哲人たちの振る舞いを眺めていた。
そうした哲学的、横溝正史『三つ首塔』的世界を後にして、僕は哲理門という門をくぐり抜けて、外に出た。別名・妖怪門と呼ばれるその門を振り返ると、左には天狗の木像が、右には手を胸のまえでだらりとさせている幽霊が安置されている。
野球場のフェンスに沿って歩くと、家並みの向こうに野方配水塔が、魔人の城のようににょっきりと姿をあらわした。
