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_ふじたかつゆきの
_バリ島・ロンボク島

第1話 第2話 第3話 第4話
第5話 2日目の夜から3日目


 ワゴンが止まったのは、小さな浜辺に民家が1件、そんな場所だった、と思う。
というのも、本当に真っ暗でそこがどういう場所なのかほとんど把握できないからだ。
「ココデマッテイテ」
 案内人たちは そういうといそいそとワゴンをおり、その民家に入っていった。
つけっぱなしのヘッドライトに丸く浮かび上がる砂浜。波音からすると海は穏やかなようだ。とても静かで、つい「今身ぐるみはがれて海に捨てられても誰にもわからないだろうな。」なんてぼんやり考えてしまう。
 後から「この瞬間がいちばんヤバいと感じた」と、相方のおちいさんはいっていたが 、私はどちらかというと、すでにカンネンしていたように思う。
 やがて戻ってきた案内人の指事にしたがい車からおりると、数人の男達が出てきている。浜辺をよく見ると、モーターを無理矢理くくりつけたようなオンボロな船が見えた。男達は船に飛び乗り、何やら準備をしはじめる。
「ココカラノホウガチカイ」
 案内人はそういって、暗い海を指差す。目をこらすとかすかな光が見えた。それはまぎれもない目的の島、ギリメノからのものに違いない。なるほど、どうやら港よりさらに島に近い浜に案内してくれたらしい。
 暗くてよく距離感がつかめないでいると、案内人は
「20プンクライ」
と教えてくれた。めっちゃ近い。
 余談だけれどもこの「20プンクライ」を、おちいさんは「20マンクライ」=「20万円程よこせ」といっているものと勘違いしてあわてたらしい。大変面白い。
 もちろん20マンではなくて、空港で話をつけた金額をお支払いした。こまかいのがすぐ見つからなかったが、それならおつりを払えないから全部もらっていいか? などといわれたので、クルマのヘッドライトの中、財布を隠すように小額紙幣をカキ集め、なんとか無駄な出費をしないですんだ。まあもしかしてわざとおつりを持っていなかったんじゃあないの? と思いもしたが、結局基本的に良い人達だったのだから、うたがってはいけない。むしろスマナかった。そしてありがとう。
人相のすこぶる悪い案内人達とはそこで握手しておわかれをする。

 船が島にちかずくに従い、もう大丈夫だろうという安心感がましてくる。もちろんそのボロ船には特別なライトなんていうものはなく、船頭さんが海に向かって照らしている懐中電灯が唯一の光りだったが、海の上に出てしまうと月明かりで少しは周囲がみえるような気がした。
 波に揺られているうちに、とても愉快になって思わずほくそえんでしまった。
 それまで心に余裕がなくて気付かなかったのだけど、見上げればびっくりするほど沢山の星が空一面に浮かんでいる。
 コンペイトウの袋をひっくり返したような、そんな感じ。
 耳をすませば、あいかわらず遠くから聴こえてくるコーランの響き。
 暗い海を滑るように切り開いていく小舟。
 それら全てがあまりにも現実ばなれしていて、なんとも心地よい。
「こんな経験はめったにできないなー」
「ああっ、流れ星! 」
 ふと、気付くとひきつった表情だったおちいさんも同じようにニヤリとしている。
 ニヤニヤしつづけるナゾの日本人2人組に、船頭さんはさぞ気持ち悪かった事だろう。

 島につくと、そこは予約をいれた宿「ガゼボコテージ」の真ん前だった。島のまん中あたりは現地の方の居住区域なので、宿やレストラン等の観光客向けの施設は島の周囲に点在している。
 なにはともあれついたついた、本当についた、ついて良かった。ホントに良かった。
 ロビー兼レストランのレジのような場所でチェックイン。背が高く、いかにもマジメそうな宿の御主人は、いったいなぜこんな時間にやってきたんだ? と不思議そうな顔をしている。
 部屋に案内される。コテージなので、部屋それぞれ独立した1件屋だ。一応夕方からは電気は通っていてエアコンも使えるが、停電も多いようでロウソクが用意されている。間取りは、ダイニング、と呼ぶにはあまりに質素な部屋と、蚊屋のついた大きなベッドがある寝室、シャワールームがある。これでも島では立派なほうらしい。とりあえず雰囲気はいいんじゃないかと思う。
 ひとまず海水が出てくるシャワーをあびる。島なので貴重な水をシャワーでじゃんじゃん使うわけにはいかないわけだ。最後に飲料水用に備え付けてある大きなポリタンクからくんだコップの水を数杯かぶってサッパリした気になる。
 一息つくとお腹がすいてきたが、レストランなどはとっくに閉まっている。ルームサービスなんぞ気取ったモノはない。1日のうちにいろいろな事がありすぎて、できるだけ静かにしていたかったのだが、昼食もとっていないし、せめてビールの1杯くらいは飲みたかったので、ドンキホーテで購入した小型懐中電灯を持って外に出た。
 おっかなびっくりロビーに行ってみると、よっぱらった従業員らしき男が出てきて、なんとかツケでビールを手に入れることができた。
 部屋に戻って生きている事に祝杯をあげる。なにかツマミがないかとさがすと、機内食で食べきれなかったダイフクが出てきたので、これを夕食とする。なんともさもしい食事だが、この時ばかりはビールもダイフクも、こんなにうまいもんだったか! と感じずにはいられなかった。
 こうやって僕達のインドネシア2日目はようやく終わったのである。ヤレヤレ。

* * *

 翌朝目がさめると、昨日のあの暗い海が嘘のように青い美しい海が広がっていた。
朝食をとりにいそいそと宿のレストランに出かける。まだ休んでいるのか、他にお客さんは白人の家族1組みしかいなかった。メニューはオムレツにトーストといったよくあるものだが、前日の昼からろくなものを食べていないので、とても豊かな気分になる。あしもとに、耳の長い猫が数ヒキやってきた。皆手にのるほど非常に小さい。これが島のネコの特徴なのだろうか? しかしコイツらはまためちゃくちゃかわいい。
 そういえば日本で調べた世界の天気予報では雨のマークがつづいていたが、ポツリとくる気配もない。時期でいっても、もうすぐ雨期のなのだが。
 食事を終えると、そうそうにシュノーケル用具を借りて海へとくりだす。島の娯楽といえばもうそれは海以外のなにものでもない。
 噂通りサンゴは皆死んでいるようで骨のように真っ白になっている。それでもなかなかの透明度で浜辺からすぐの所で魚をかなりみることができた。珊瑚が生きていたら、竜宮城のごとくきれいだったに違いない。世界的に地球温暖化で深刻な状況だというのがマザマザとつたわってくる。

 海をあがると散歩に出た。 道すがらカタコトの日本語で、
「ドコイキマスカ」
と幾度も声をかけられる。その度に、
「ジャランジャラン」
と返事をする。「ジャランジャラン」とはこちらの言葉で「散歩」の事。
こんなに遠い島でも日本語が話せる人がいるのには感心する。本当によっぽど日本人観光客はオトクイさんなのだなあ。
 砂浜をあてもなく歩いていると、ウニがゴロゴロと転がっていた。帰りにひろってやろうと思ったが、その後2度と遭遇する事はなかった。みなさん、チャンスは1度ですよ。
そのまま島を歩いて1周してやろうかと思ったが、それほど簡単な距離でもなかったようだ。しだいにお腹もすいてくる。宿の付近にはよさげなレストランが集まっていたが、そこまでくるとほとんどなにもない。ただ、この先に店があるという看板があった。

 やがて、そこら中におかしな日本語が書かれている店にたどりつくいた。

夕日が見えるレストラン
「グッド・ハート・カフェ」

 この店で、僕達は愛すべき店員さんや、めずらしい動物に出会う事になる。

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なにもないといってもたおれた木ぐらいはある グッド・ハート・カフェ
倒れた木とかはある
「グッド・ハート・カフェ」

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