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_ふじたかつゆきの
_バリ島・ロンボク島

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第6話 3日目の夜から4日目


  グッド・ハート・カフェは、ガタイが良くていかにもたよりになりそうなw杯韓国サッカーチームのG.K.イ・ウンジェ選手似のご主人と、長髪でひとなつこい、でも気弱そうな笑顔が印象的な若いウェイターの2人できりもりしていた。
 しずかな場所にあるその店は、夕日が見える時間に来ればさぞロマンチックなんだろう。
 気弱そうなウェイターは、やはりはにかんだように自己紹介をしてくれた。
 名を「ブッディ」というそうだ。蓮の花が描かれた鮮やかな黄色のシャツがよく似合っている。
料理の注文をすると、ブッディ君は跳ねるように厨房へとかけていった。

ナイスガイブッディ君
ナイスガイ ブッディ君

 白人の老夫婦がやってきて、やれやれ、といった表情で窓際の席に座る。

 注文したシーフード料理はまずまずといったところだった。だいたいにおいて、島の料理といえば海の幸を焼いてサンバルというソースで食べるものが多い。ここでもまたシカリ。
 ご主人は奥の方で御満悦な笑みを浮かべて「ドウダ! 」とばかりにこちらを見ている。
ブッディ君はそんなご主人の目を盗んで、我々の席にやってきて「料理はうまいか?」とか「日本語を勉強中だ」とか話し掛けてくる。そんな時はたいがいうるさくなるのものだが、なぜかブッディ君はそうは思わなかった。どこか人の良さがにじみでているのだ。
 島の様子も色々と教えてくれた。少し歩いたところに大きな沼があるそうだ。沼と聞くと、なにか得体の知れない生き物がいそうでわくわくする。
 やがて話しは明日の予定に。どうやら船を出すのでシュノーケルしないか? という事らしい。もちろんタダではないのだが、我々はこのブッディ君をとても気にいってしまったし、どのみち船で沖の方にいってみたいとも考えていたのでお願いする事にした。朝6時に宿の前に迎えに来るので朝食を食べにふたたびこの店に来て(この辺はさすがにちゃっかりしているのだ)それから、ポイントにつれていってくれるようだ。

 ポイントは次の3つ。

・イルカがやってくるポイント
・クリスマスツリーが見れるポイント
・1000匹の熱帯魚が乱舞するポイント

「クリスマスツリー、キレイネ」
クリスマスツリー? なんの事だろう? 珊瑚の大きいやつかな? 
期待は膨らむばかりだが、遅くなる前にそろそろ宿に帰るとしよう。島の暗さには昨夜ですっかりこりている。

「ごちそうさま、いくらですか?」
 すると、ブッディ君はたちまち険しい顔になり、伝票を握りしめ計算しはじめた。
 まさかぼったくり? とゴクリ咽をならして見守ったが、提示された金額は思わずエーッ! となるほど、どう考えても安すぎで、この旅にはめづらしい事だが「もうちょっと高いだろうよ! 」とつっこんでしまった。
ブッディ君はアワアワアワとなって、
「イクラデスカ? ケイサンムツカシイネ」
とこちらに伝票を渡してきた。結局自分で自分のたのんだ料理の代金を計算して支払いをすませる。
我々はますますこの男が好きになってしまった。

「ワァーオ! 」
 帰りしな、老夫婦とご主人が店の横を覗き込んで声をあげた。
我々もなんだなんだと見物しに行くと、そこには大きなトカゲが1ピキ海を見つめているではないか。
ご主人は笑って
「ベイビー・ドラゴン」
と言った。
 それは野生のコモドドラゴンだった。大きく見えても子供なのである。このロンボク島よりもっと先に行くとコモドドラゴンが数多く生息する島もあるという。
 突然の珍客にますます期待はふくらむ。
それじゃまた明日、ブッディ君、店長さん、そしてコドモコモドドラゴン。

* * *

 翌朝、海の彼方からブッディ君はやってきた。こう言っては悪いが、この島に来た船よりもさらにたよりない感じの船であった。予定より少し遅いが、太陽はまだ顔を出してはいない。
 グッド・ハート・カフェに寄り道して簡単な朝食を食べた後、我々は日焼けしないように長そでのシャツを着込み再び船に乗り込んだ。
 ブッディ君が「マスクはモッテキタ?」ときくのでうなずくと、彼も軽くうなずいて、船首に移動し遠くの海に何かを探しはじめた。
 やがて太陽が顔を出し、海と空が黄金色に染まった。
ブッディ君も朝日に顔を染まっている。
「タータォル、カメィ」
 見ると遠くにちょこんと何かが見えた。あまりにも小さくてよくわからないのだが、たしかに何かいる。ニョキッと杭のようなカメの首が水面から出ているように見えた。
私があまり目が良くない事もあるが、このような自然に囲まれて暮らしているブッディ君の視力は、おそらく相当いいのではないかと思う。しかしあまりにも遠い。

 太陽が完全に登ったあたりで、ブッディ君が再び海を指さした。
「ダゥルフィン、ダゥルフィン」
おーあれがイルカ...あれはイルカ...なのか? 
 それはまたもや遠く小さい。水族館のように大っぴらにジャンプするような事もないその生き物は、イルカといわれればイルカに見えなくもないが、メダカといえばメダカである。
 大興奮御満悦のブッディ君に水をさすように「遠いねえ」と言うと、
「アマリチカク、イッテハイケナイ」
とのこと。なるほどそれはたしかになにか少し重みのある言葉のように感じられた。
「ダゥルフィンハオシマイ」
 ブッディ君はニカっと笑い、さっさと次のポイント「クリスマスツリー」にボートを移動した。

 もはやずいぶんと沖合いに出てきていて、水深は10m、もしくはそれ以上あるかもしれない。
自慢じゃないがこっちは足のつく範囲でしかシュノーケルをした事がないというズブの素人。だいたいろくすっぽ泳げない。それに加えて、レンタルの水中メガネはボロボロでゴムなどいまにも切れてしまいそう。
 ふと見ると早速ブッディ君が喜々として海に飛び込む。相方のおちいさんもすぐその後につづいた。彼女も私と同じようなもんなはずだがさすがキモがすわっているのだ。
 たしかにここまできて躊躇していてもしかたがない、腹をくくってこっちもザブンと飛び込んだ。
案の定すぐさま水中メガネに水が侵入し、鼻の奥底まで海水が流れ込んで目の奥にしみるような痛みが走る。塩水を鼻からいれて口から出すうがいはとても効果があるという話を聞いた事があるがそれどころではない。エンドレス鼻うがいだ。水中ではわたしの叫びはだれにもきこえない。
 そんな愉快な状況で、ブッディ君は実に優雅な泳ぎで海底にそびえたつ大きなイモを指差した。

イモ? 

 そう、海底には3mはありそうなそれは巨大なじゃがいもがそびえたっていた。
「これがクリスマスツリー...なのか?」

なぞは次回につづいていく。

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