翌朝、海の彼方からブッディ君はやってきた。こう言っては悪いが、この島に来た船よりもさらにたよりない感じの船であった。予定より少し遅いが、太陽はまだ顔を出してはいない。
グッド・ハート・カフェに寄り道して簡単な朝食を食べた後、我々は日焼けしないように長そでのシャツを着込み再び船に乗り込んだ。
ブッディ君が「マスクはモッテキタ?」ときくのでうなずくと、彼も軽くうなずいて、船首に移動し遠くの海に何かを探しはじめた。
やがて太陽が顔を出し、海と空が黄金色に染まった。
ブッディ君も朝日に顔を染まっている。
「タータォル、カメィ」
見ると遠くにちょこんと何かが見えた。あまりにも小さくてよくわからないのだが、たしかに何かいる。ニョキッと杭のようなカメの首が水面から出ているように見えた。
私があまり目が良くない事もあるが、このような自然に囲まれて暮らしているブッディ君の視力は、おそらく相当いいのではないかと思う。しかしあまりにも遠い。
太陽が完全に登ったあたりで、ブッディ君が再び海を指さした。
「ダゥルフィン、ダゥルフィン」
おーあれがイルカ...あれはイルカ...なのか?
それはまたもや遠く小さい。水族館のように大っぴらにジャンプするような事もないその生き物は、イルカといわれればイルカに見えなくもないが、メダカといえばメダカである。
大興奮御満悦のブッディ君に水をさすように「遠いねえ」と言うと、
「アマリチカク、イッテハイケナイ」
とのこと。なるほどそれはたしかになにか少し重みのある言葉のように感じられた。
「ダゥルフィンハオシマイ」
ブッディ君はニカっと笑い、さっさと次のポイント「クリスマスツリー」にボートを移動した。
もはやずいぶんと沖合いに出てきていて、水深は10m、もしくはそれ以上あるかもしれない。
自慢じゃないがこっちは足のつく範囲でしかシュノーケルをした事がないというズブの素人。だいたいろくすっぽ泳げない。それに加えて、レンタルの水中メガネはボロボロでゴムなどいまにも切れてしまいそう。
ふと見ると早速ブッディ君が喜々として海に飛び込む。相方のおちいさんもすぐその後につづいた。彼女も私と同じようなもんなはずだがさすがキモがすわっているのだ。
たしかにここまできて躊躇していてもしかたがない、腹をくくってこっちもザブンと飛び込んだ。
案の定すぐさま水中メガネに水が侵入し、鼻の奥底まで海水が流れ込んで目の奥にしみるような痛みが走る。塩水を鼻からいれて口から出すうがいはとても効果があるという話を聞いた事があるがそれどころではない。エンドレス鼻うがいだ。水中ではわたしの叫びはだれにもきこえない。
そんな愉快な状況で、ブッディ君は実に優雅な泳ぎで海底にそびえたつ大きなイモを指差した。