下車した津川は、福島と新潟の境にある。駅にキツネのオブジェがあるのは、“狐の嫁入り”を町興しのテーマにしているからだ。
昼食は塩屋橘さんというお店で、シャケと古代米を蒸したわっぱ飯である。小鉢は、味噌田楽、ワラビ、大根おろしを添えた玉子焼き、そして味噌汁。わっぱ飯は、蒸し立てで熱々である。食事がおいしいのも、この観光会社のツアーの特色で、いつも満足している。
塩屋橘さんは手打ちの蕎麦処で、せっかくなので、もりを1枚、ツアーとは別に個人清算で頼んだ。キリッと立った、実直な蕎麦だった。
京町屋の「通り庭」のような、玄関から裏庭へと続く細長い土間のあるお店の造りは、この地方独特の様式とか。食後、建物好きのウエノは、明治初期の建築を再現したという店内を、お店の方に案内していただいた。
太い梁のある二階の座敷には、船底板でできたテーブルがあった。
さて、町興しの“狐の嫁入り”であるが、地元で狐火が多く目撃されたことによるらしい。
塩屋橘さんのすぐ並びに、狐の嫁入り屋敷なるイベントスペースがあった。5月にはここを拠点に、狐の嫁入り行列が商店街を練り歩くそうだ。
その商店街も、木造の古いお店が建ち並んで風情があった。
続いて、バスはすぐ近くにある麒麟山温泉の旅館、古澤屋さんへ。古澤屋さんの眼の前にそびえる岩肌の断崖が麒麟山だった。
贔屓にしている小料理屋さんで、いつも飲むのが麒麟山というお酒である。この地にある酒蔵なのだろうが、なるほど、こんな山だったのか。
打って変わって、露天風呂から見えるのは阿賀野川と飯豊山(いいでさん)の墨絵のような風景である。
ぬる目の温泉にゆっくりと浸かり、川の音を聞く。
年末から2ヵ月かけて、新しい小説を昨日書き終えた。真夏を舞台とした小説である。真夏の話を、真冬に書いていたわけだ。
僕くらいの位置にいる作家では、書いたものすべてが本になるとは限らない。内容勝負である。
面白いと認められれば、夏前の刊行となるはずだ。
向こうの山並みが、冬の陽を受けて明るくなった。
<食事した店>
そば処 塩屋橘
http://www.shioyatachibana.com/
<温泉に入った宿>
麒麟山温泉 古澤屋
http://www.furusawaya.com/