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挿絵
2017 上野亭店主口上 BACK NUMBER

>2013.12

挿絵

冬至に、この冬最初の白菜漬けを食べました。ユズの代わりにミカンの皮を使っています。
これからは昼が日一日と長くなりますが、寒さの本番は正月明けから節分にかけて。炊き立てのご飯に白菜漬けを楽しみに布団を抜け出す季節です。

>2013.11

挿絵

近所の市場で塩ジャケのアラを買ってきて、妻に身をほぐしてもらいました。タッパーに入れて、朝ご飯のお供になるわけですが、それとは別に、皮の部分を炙ってもらいます。
お昼には、香ばしい皮を玄米飯に載せ、ワサビ漬けをちょいと盛り、熱々の番茶をかけまわします。箸休めは、大根の皮のぬか漬け。
カリッカリだったシャケの皮が、お茶に脂がゆるみ、ねっちりとした歯触りになります。 シャケの皮のお茶漬けと、大根の皮の漬物。二つの“皮”は非常にチープですが、冬の食卓に喜びを添えてくれます。

>2013.10

挿絵

夜が明けて海は凪いでいました。風にあおられるような横揺れは治まり、ベッドで横になっていても時々エンジンの微振動が伝わる程度です。
デッキに出て、日本海の陽の出を眺めると、再び客室に戻ってきました。昨夜10時に苫小牧港を発ったフェリーは、もうあと1時間ほどで秋田港に着岸します。僕が下船する新潟港に着くのは午後3時半。船旅はまだまだ続きます。その間、昼寝をするのもいいし、大浴場の広い窓から海原を眺めているのもいい。
なにはともあれ、朝食前にスコッチの薄い水割りを1杯飲ることにします。初めての船の上での休日なのですから。

>2013.9

挿絵

月に1度、NHKカルチャーで文章講座を開講していて、同じ練馬区内にある光が丘まで30分ほどかけて歩いて通っています。路線バスもあるのですが、居職で運動不足のために歩こうというわけです。
夏場は汗だくでしたが、歩くのに気持ちのよい季節になりました。そして毎月第4木曜のこの日は、なんと晴れが(少なくとも僕が歩いている時間帯は)続いているんですね。
光が丘にはショッピングセンターもあるので買い物したり、復路は市場に寄り道して好みの鮨を握ってもらい、土産にするのも楽しみになっています。

>2013.8

挿絵

最暑と名のついた週の1日、江ノ島電鉄を極楽寺駅で降りました。赤い欄干の桜橋を渡る途中、レンガ造りのトンネル・極楽洞から江ノ電の緑色の車両がちょうど出て来るのを眼下に眺め、笑みがもれます。
駅名の由来となった極楽寺は、小ぢんまりとしたお寺です。かやぶきの山門をくぐると、午前の早い時間でまだ境内に人影はなく、百日紅(さるすべり)の赤い花だけがここを先途と咲き誇っています。その傍らでは萩が、静かに忍び寄る秋を知らせるように蕾をつけているのでした。
夏休み中、厄介になっている辻堂海岸近くの妻の実家に戻り、極楽寺駅のプラモブロックをこしらえました。1ポッチが2.5×2.5ミリ。組み上げると、幅4センチのかわいらしい駅が現れました。

>2013.7

挿絵

好きな車窓風景(5)
湘南新宿ラインから見える飛鳥山

池袋から大宮方面行きの湘南新宿ラインに乗ったとします。ステンレスボディに、旧国鉄時代からのオレンジと緑のいわゆる湘南色の帯を巻いたE231系近郊形電車は、田端の手前でトンネルをくぐります。外に出ると、さっきまで隣を走っていた通勤車両の帯が、ウグイス色からスカイブルーに変わっているのに気がつきます。山手線だったのが、京浜東北線になっているのです。これは、山手貨物線を走っていた湘南新宿ラインが、トンネルを出てからは、東北旅客線と並行する東北貨物線を走るから。

やがて、車窓の向こうに飛鳥山の緑の裾野が見えてきます。かつて王子駅前の飲み屋横丁「さくら新道」があった頃は、夜にここを走ると紫のネオンが温泉街みたいな風情を感じさせたものでした。今あるのは漆黒の闇です。それはしんとした江戸の気配なのでした。

>2013.6

挿絵

先日、仕事で乗った福岡行きの旅客機がボーイング747型でした。そう、あの「ジャンボジェット」です。現在、国内ではANAのみが5機保有しているそうで、それらもすべて今年度中の退役が発表されました。
この日は出立時間が昼近くと半端だったためか、空席が目立ちます。そうして見てみると、2階席への階段も、両翼に二つずつあるエンジンも、客足の遠のいた老舗巨大旅館のようでもあります。
“セブン・フォー・セブン”ていったら、僕が子ども時代はあこがれのヒコーキで、今こうして乗っていることが誇らしいような、消えてゆくことが寂しいような、複雑な思いがしました。

>2013.5

挿絵

「六月無礼(ろくがつぶれい」という言葉があります。辞書を引くと「陰暦6月は暑さが厳しいので、服装を略式にする無礼は許されること。」の意になります。
会社員の方はすでにクールビズが始まっているご様子。僕も今はTシャツにスリークォーターパンツですが、これが7月になるとランニングシャツに短パンとさらに無礼に。まあ、そのかわり、この夏もなるべくエアコンを使わず乗り切るつもりでおります。

>2013.4

挿絵

好きな車窓風景(4)
つくばエクスプレスから見える空っぽの風景

TXは、北千住を出て、荒川に向かう時に描く緩やかなカーブがカッコいいですね。右手に見える、東京拘置所の羽ばたく鳥のような旧獄舎も見逃せません。
しかし、いちばんの見どころは、守屋を過ぎてから目立ち始める緑と土の風景ですね。
土というのは、造成された宅地だったり、たんに空き地だったりします。それは、森を切り開いた、新しい町らしい風景で、そのうちたくさんの家やマンションが立ち並ぶのでしょうね。でも、晴れた日など、うららかな陽射しの中にある、なんにもない風景を車窓から眺めているのもよいもでのですよ。

>2013.3

挿絵

好きな車窓風景(3)
東急東横線から見えた失われた点景

3月16日のダイヤ改正で、副都心線と東急東横線の相互直通運転が開始されたことにより、渋谷‐代官山駅間が地下化されました。
渋谷駅を電車が出ると、右へ右へと描かれる緩やかなカーブ。あのカーブと、ビル街から人々が住み暮らす代官山の住宅地へと分け入っていくリズムが実に心地よかったものです。古い洋風邸宅の窓辺には黒猫がいて、こちらをじっと見ていたり……
それは再び車窓からは見られなくなった風景です。

>2013.2

挿絵

この春は、空豆をサヤごと焼いて食べるのに凝っています。少し焦げ目のついたサヤをはずすと、ほっくりと蒸し焼き状になった空豆が現れます。塩をちょいと付けて食べますが、お好みで皮は剥かずにそのままでも。ちょっと硬いですが、旨味を含んだ皮付きのままで食べるのが、僕の好みです。
しかし、これが茹でた空豆となると、皮をとって食べるんですな。空豆の食べ方にも哲学があります。

>2013.1

挿絵

自宅の北西にある仕事場は、夏は涼しいのですが、冬は冷え込みます。大きなブランケットにくるまり、オイルヒーターを股火鉢のように抱え込んで原稿書きをします。
午後3時を過ぎると西陽が射し込み、部屋の中が少しだけ華やぎます。その陽がだんだんと力強くなっているのを感じる毎日です。

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