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_ふじたかつゆきの
_バリ島・ロンボク島

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第8話 6日目


 染物工場の課長(推測)はイサクといった。
 タイムボカンシリーズのボヤッキーを浅黒くしたような風貌である。
課長イサクは、手慣れた調子で工場の説明をしながら奥へと進んでいった。我々もいそいそ後をついていく。
 中では、昔ながらといった木製の道具をつかって、わかい女の子数人が機織りをしていた。そのどの子も純朴そのもので、仕事の邪魔にならないよう長い黒髪を束ねた姿は、崇高な感じさえ覚えさせる。もし言葉がつうじたのなら、「すごいね」とか「がんばってね」とか、なにか話し掛けていたのだろうけれど、できた事といえば、うんうんうなずいてにこりと笑いかける事くらい。それでも皆笑いかえしてくれた。
 チラリ課長イサクをあらためてみると、なにかとても悪い人のようにみえて、機織り娘らが借金のカタにつれてこられて働かされているのでは、との思いがよぎる。ま、そんな事はないだろうな。そんな事であっても、通りすがりの旅のお方である私にはどうすることもできないしな。

 さらに奥へと進むと、今度は青年が束ねた糸を染料の入った大きなナベにひたしているところであった。
 今度はうってかわって力強くダイナミック。しかしなるほど本当に全てが手作業なのだ。だから同じものが2つとない。そしてつまりそれは職人のカンと腕が工場経営の全てをささえているという事なのだ。
 ふと横をみるとドアがあいていて、その向こうでなにか木彫り細工に真剣な顔をしている若者がいた。目があうが今度はニコリともせずすぐに作業に没頭しはじめる。しかしそれがなんともまた職人らしくてイイ感じである。

 課長イサクは、一通り足早に工場の案内を終えると、今度は我々を階下の部屋に案内した。
 そこは広い広い直営の土産物屋であった。なーるほど、コレが待っているので案内サービスがああるのだなと納得していると、課長イサクはストローのつきささった小さなミネラルウォーターを差し出して、いいものばっかりだから見ていけ見ていけなどと言った。
 実際それは満更嘘でもなくて、陳列してある篭や木製の器、飾り、そしてバティックは、いましがた見てきた職人たちの技がキラリと光る逸品であった。中にはアレと思うような細工のものもあったが、さしずめかけだしの職人が作ったものなんだろうと思うと、なにやらそれはそれで味にも見えてくる。

 我々が物色しはじめると、課長イサクは私を無視して相方のおちーさんにばかり話しかける。女性だからか、それとも私の目つきがあやしいからなのか。
 日本ではwebデザインの仕事をしているという話題になると、課長イサクは、ナニっという顔をして、小声で、
「ワタシ、インタネットデココノモノウルコトヤリタイデスネ。アナタ、ソレデキル?」
と言い出した。
 ネットショップの日本代理店をやらないかと誘っているのだ。そんなあんた、さっきあったようなボヤッキー顔の男といきなり商売できますか? ってんだ。ねえ、おちーさん。
「考えてみます」
 なぬーーーっとか! おちーさん、考えてみるっいっちゃったりなんかして! 考えるまでもなくだめでしょうよー! っと広川太一郎的に驚いているこちらをよそに、課長イサクはちょっと飛び上がって是非是非やろうと喜んでいる。おちーさんも調子にのってメールアドレスの交換などしておる。うーむ大丈夫なのか。
おちーさん曰く、
「やるって言ったわけじゃないから」
との事だが、彼女が化粧室にいって、姿をみうしなった課長イサクは、
「オンナ、オンナドコイッタ?」
と逃がしゃしねえといった顔つきでキョロキョロしているところを見るかぎりでは、この人にどこまでそのニュアンスが伝わっているのやら...。
 多少の疑問が残るまま、いくつかの品を買い工場を後にした。
 駐車場に観光客を大勢のせたバスが入ってきて、課長イサクはすばやく次なるターゲットに近付いていった。

 そろそろ飛行機の時間なので、またギリメノ「ガゼボ・コテージ」のご主人の車で空港に送ってもらう。
 ご主人は今度来たときは、もっと色々案内するよ、と言ってくれた。短いつきあいだけれど彼の言葉には信用できるものがある。ありがたい人だなあ。
 空港につくと、なにも要求してこないご主人に、お礼、というにはものすごい少なくてかえって失礼なんじゃないかという額のお金を渡し、記念に写真をとらせてもらい、そこでお別れした。

 ふりかえると、総じてギリメノの人々は基本的にとてもあたたかく親切な人ばかりであった。たとえ塩水しかでないシャワーであっても、それがとてもいごこちのよい島であった1番の理由かもしれない。

* * *

 さてバリに帰ってきた。
 財布は予想通り帰ってこなかった。探してくれた旅行代理店の人は、タクシーの運ちゃんをつきとめて話しを聞いてくれたとのことだが、そんなものなかったけどー、などと言われたそうだ。やっぱしな。
 まあいい、ここからは芸能、買物 、エステにグルメの旅ときたもんだ。えげつなくいくぜ! 
 まずは気をとりなおして本日の宿、ウブドの「プリ・サラスワティ」をめざす。
ここは比較的安めのホテルだが、吉本ばななも宿泊したようで、良い宿だと本に書いている。その後は、高級ホテル「ピタマハ」で2泊し帰国となる。両方とも迷いに迷って吟味して選んだホテルなので楽しみなのだ。

 バリでもやはり様々な出会いやカルチャーショックがあった。
 ビーチリーゾートもいいけど、私はやっぱりシティ派、という方おまたせしました。
コウフンして次回を待つように。


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