染物工場の課長(推測)はイサクといった。
タイムボカンシリーズのボヤッキーを浅黒くしたような風貌である。
課長イサクは、手慣れた調子で工場の説明をしながら奥へと進んでいった。我々もいそいそ後をついていく。
中では、昔ながらといった木製の道具をつかって、わかい女の子数人が機織りをしていた。そのどの子も純朴そのもので、仕事の邪魔にならないよう長い黒髪を束ねた姿は、崇高な感じさえ覚えさせる。もし言葉がつうじたのなら、「すごいね」とか「がんばってね」とか、なにか話し掛けていたのだろうけれど、できた事といえば、うんうんうなずいてにこりと笑いかける事くらい。それでも皆笑いかえしてくれた。
チラリ課長イサクをあらためてみると、なにかとても悪い人のようにみえて、機織り娘らが借金のカタにつれてこられて働かされているのでは、との思いがよぎる。ま、そんな事はないだろうな。そんな事であっても、通りすがりの旅のお方である私にはどうすることもできないしな。
さらに奥へと進むと、今度は青年が束ねた糸を染料の入った大きなナベにひたしているところであった。
今度はうってかわって力強くダイナミック。しかしなるほど本当に全てが手作業なのだ。だから同じものが2つとない。そしてつまりそれは職人のカンと腕が工場経営の全てをささえているという事なのだ。
ふと横をみるとドアがあいていて、その向こうでなにか木彫り細工に真剣な顔をしている若者がいた。目があうが今度はニコリともせずすぐに作業に没頭しはじめる。しかしそれがなんともまた職人らしくてイイ感じである。
課長イサクは、一通り足早に工場の案内を終えると、今度は我々を階下の部屋に案内した。
そこは広い広い直営の土産物屋であった。なーるほど、コレが待っているので案内サービスがああるのだなと納得していると、課長イサクはストローのつきささった小さなミネラルウォーターを差し出して、いいものばっかりだから見ていけ見ていけなどと言った。
実際それは満更嘘でもなくて、陳列してある篭や木製の器、飾り、そしてバティックは、いましがた見てきた職人たちの技がキラリと光る逸品であった。中にはアレと思うような細工のものもあったが、さしずめかけだしの職人が作ったものなんだろうと思うと、なにやらそれはそれで味にも見えてくる。