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_ふじたかつゆきの
_バリ島・ロンボク島

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第9話 7日目


 バリ島に戻ったら、次の目的地ウブドの村に行く前にまず買おう、と思っていたものがあった。
 はい、それはなんでしょう?
 時間切れです。答えはスーツケース。
 ここから先はみやげものなどで荷物もふえていく。陶器や絵などがさばって壊れやすいブツだって買うかもしれない。そこで物価が安い現地で、立派でハードなカバンを購入しようじゃないかという目論みなのだ。
 ウブドは田舎の村であるから、おそらくそういった買物であれば街にいるうちがよいだろうとふんだ我々は、途中タクシーの運ちゃんに寄り道してもらい大きなデパートにのりこんだ。
 こざっぱりとした広い店内をさまよっていると、あったあったハイグレードな旅行鞄がよりどりみどりの大バーゲンだ。ここぞとばかりにビッグで頑丈そうな鞄を買いもとめる。
 しかし何でも安いなあ。いやあ、老後はインドネシアに移住しようか。

 ウブドの目抜き通りにタクシーが入っていくと、おや? と思う町並みになる。
 おしゃれなブティックとか、ちょっと洗練されたレストランなんかもあって、なんだか自由が丘あたりに来たようだ。芸術の村ってふれこみに、勝手に質素な建物が立ち並んでいる所を想像していたのだが、まあよく考えればウブドといえばバリの観光スポットまるだしなわけで、いわば田舎を売りにしている田舎のプロだ。シロウトの粗野な田舎とはわけが違う。本当はあんなことだって知っているのよ、とほくそえむ都会の女子中学生のようなものなのだ。むなしき思いがよぎり、ふと遠い目になる。
 しかし、そうはいっても大きなデパートなんかはなく、先にスーツケースを買っておいたのは正解であった。
 あ、そうそう、もし現地で簡単な着替えを暢達したいと考えるならやはりクタなんかの街のほうがいい。
ウブドでは普段着にちょうどいい、どーでもいいような服があまり売っていなかった。たいがいは、こんなん日本に帰ったら着れません、というようなトカゲ柄のエスニックシャツのようなものばかりである。まあでも、日本の観光地で「アイ・ラブどこそこ」だとか、ファンシーなデザインのはずかしいプリントがほどこされたTシャツなどが店頭に並んでいたりするけれど、あれにくらべたらいくらかマシなのかな。

* * *

 プリサラスワティは中級の宿である。作家、吉本ばななの本でも紹介された事がある。なにより隣に大きな蓮池があるところが雰囲気があってとてもよろしい。
 チェックインすると、若だんなと思われる、藤井隆そっくりの男が部屋まで案内してくれた。この藤井隆モドキ、流暢な日本語を操るのだが、その喋り方までなんとなく「マシュー」みたいで思わずクスリ。
 さて、案内された部屋について結論からいってしまうとダメであった。
吉本ばななの本でも良さげに書かれていたが、web上で見た旅行記でも評判がよかったので大いに期待していたのだが、まあ清潔感はあるのだが、眺めもダメならなにより狭い。もちろん評判の部屋を予約したにもかかわらずである。念のため、1ランク上の部屋も見せてもらったが、べつにーという感じだ。
 ちなみに部屋のカギは南京錠が1つついているだけなので、常に半開き状態となってしまう。そのあたりのルーズさは南国情緒なのかもしれないが、日本の密閉式住宅になれていると、どうもノゾキかれているような気がしてどうも落ち着かない。
 まさか藤井隆モドキがコズルイヤツで、予約に関係なく適当な部屋をみつくろわれたのか? どうしてここは見せてくれないのか? という部屋には近寄りもしないし。おそらくそっちが評判の部屋にちがいない、といつもの勝手な妄想で眉間にシワをよせてみる。

 どうも釈然としない気持ちをリフレッシュするべく、散策にでかけることにした。
 フロントでカギをあずけると、人のよさそうな姉さんが、これまた流暢な日本語で
「イマ、10ネンニ イッカイノ スバラシイオマツリ ヤテマス。ゼヒドウゾ」
などと教えてくれた。
 ウブドでは、年がら年中なにかのお祭りをやっているときいていたので、きっと大袈裟に言ってるんだろうと思ったが、面白そうではあるので本当にヒマになったら行ってみようと思う。

 ひとまずボチボチ歩き出すと、ところどころにおばさんが立っている。不思議に思い、その中の1人に声をかけてみると、今夜は村の公民館のような場所で影絵芝居の公演があって、そのチケットを売っているそうだ。
 場所は歩いていけるほど近いのか質問すると、ウンウン、めっちゃ近いから安心しろ、という。
なにやら怪しいが、おばちゃんを信じてチケットを購入、今夜は影絵見物としゃれ込むことにした。

 宿に帰ると、さっきフロントにいた人のよさそうな姉さんが、お祭りに参加すべく民族的衣装に着替えていた。
これからお出かけの所すみませんが、影絵会場に行く道順を教えて下さいと、今しがた買ってきたチケットをみせると、
「オオオーウ! 」
と、眉間にシワをよせて嘆きの声をあげた。そして一言。
「トテモ トオイデス」

 その日の夜、うすら寂しい道のりをトボトボと歩く我々がいた。
 いやらしい事に会場までの距離は、歩いて行く気になるギリギリの所にあった。
 ようやく会場にたどりつくと、バイトの兄ちゃんみたいなの2人がめんどくさそうにモギリをやっている。
 渡されたチラシには日本語でおおまかなストーリーが書かれていた。とある国にあらわれた怪物と王子様の戦い、とまあわかりやすくも単純な内容である。
 奥へと進んていくと、黒板くらいのスクリーンがたててあり、その向こう側に立て掛けてあるペラペラした人形がタイマツの明かりに影を落としていた。
 お客さんは全部で20人くらい。欧米からの旅行客が多いようだ。皆おとなしく開演の時をまっている。

 やがて司会者と思われる年輩の男があらわれ、冗談まじりに英語で挨拶をはじめた。
 タイコがドドンと鳴り響き、いよいよはじまりはじまり。
 使われる人形はどれも細かな細工で幻想的。それがタイマツのふわりと揺れる明かりに不思議な影を落とす。じっと見ていると、脳のどこかが溶けていくようだ。
 実はさっきの司会者は語りべだったらしく、スクリーンにバサリバサリと激しくあやつられる人形にあわせて歌うように話しを進めていく。(姿は見えないので、ひょっとしたら人形も自分で操っているのかもしれない)
 白人さんがたまーに笑っているのでわかるのだけど、伝統的、古典的な演目を、 あまり堅苦しくならずに楽しめるように、アドリブで冗談をいれたりしているようだ。やはりプロのエンターティナー、サービスも忘れていない。
 が、ぶっちゃけ、日本語しかわからない男(私)が長時間みるにはツライんだよねえ。
 物語りはまだまだつづくようだ。明日はなにをしようかな。


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