ステージではすでに民族衣装をまとった少女による舞踊がはじまっていた。
どうやら出し物は「ウブド子供会の皆さんによるトラディショナルダンス」のようだ。
舞台下には、向いあうように2グループの楽団が演奏できるような席が準備されていて、その一方はまだ空席であったが、もう一方の席で楽団が少女の踊る伴奏を奏でていた。
演奏につかっている楽器はジュゴクという竹でできた木琴(竹琴とでもいうべきか)で、ポンポンという小気味のよい音かする小さなものから、断続的にブーンという重低音のする巨大なものまである。演奏はどうやら地元の若者達で「ウブド青年楽団の皆さん」といったところらしい。
1曲終わると、出番を待っていた次の子供が、舞台中央のカーテンから文字通り踊り出す。ソロで踊る子供もいれば、数人で見事なコンビネーションを披露する子供達もいる。子供といえど、みな一様に素晴らしい身のこなしだ(そういえばホテルプリ・サワスワティの隣にある蓮池で子供達が踊りの練習をしていたっけ)。ここは特訓の成果を発表する大舞台というわけだ。
個人的に一番ひきこまれたのは、ある男の子のソロダンスだった。その男の子の振りは歌舞伎のミエのような、ちょっとロボットのような動きをしていた。いやこれが本当に迫力がある。口で説明するのは難しいが、ジーっと見ていると、なにやらその子供が目の前まで飛び出してくるような不思議な感覚をおぼえた。真の気迫というものがないとこうはいかないだろう。
そのうち大人のダンサーも登場してきたが、こちらはなんともエロティックに感じる。特別大胆に肌を露出しているわけではないし、一応子供達と同じタイプの踊りなのだが、マッタリとしていてなめらかな物腰がなまめかしく、見ているだけで酔っぱらってくるような気がする。
舞踏のコーナーが終わると、舞台前の空席に新たな楽団がドヤドヤとやってきた。
向かい合った2つの楽団は、なにやらはやくもただならぬ緊張感につつまれている。
なにがはじまるのかとわくわくしていると、隣に座っていた、この寺に入る際貸衣装を着せてくれた親切兄さんが、
「アトからやってきた楽団は、ジュゴク演奏のメッカである村から、コノ祭りのために招待されてきたプロ楽団なのデス。日本にもツアーに行きマシタ。これからコノ村の楽団と演奏合戦をするのデス。」
と流暢な日本語で教えてくれた。
勝敗は最後にお客さんの拍手で決めるというルールのようだ。
そうこうするうちに、ウブド青年団の演奏がはじまった。
踊りの伴奏の時とはまた違って、殺気のあるキレアジするどい演奏だ。ウブド村の名誉がかかっているので、だれ一人として明日の朝ゴハンの事など考えているようなボンヤリした顔の者はいない。真剣なのだ。
1曲終わるといよいよプロ楽団の攻撃がはじまった。
ドンドン! ドンドドン!
激しく短いイントロ。第一印象は、その音の「重さ」だ。
単純に音量もでかいのだが、特に低音域を担当する超巨大な竹木琴は音色にすごみがあって、腹の奥のどこかをぐいぐいと押さえ込まれるようだ。
ニワカ評論家としていわせてもらうと、パワーのプロ楽団とテクニックの青年団という構図が見えてくる。フイに、元祖仮面ライダーの「技の1号、力の2号」というキャッチフレーズを思い出す。
プロ楽団の演奏が終わるとまたウブド青年団の演奏だ。これをなんと数時間くり返し行うらしい。これはまさしく音の格闘技なのだ!
うーむ、すごいなあ! すごすぎるなあ!
すごいけれど、さすがに一晩中つきあうわけにもいかない。勝負の行方が気掛かりではあったが、24時近くになって重い腰をあげた。
どうも考えもなしに大変遅くなってしまった。どうやってホテルにもどろうか。
ひとまず歩いていけるホテル・プリ・サワスワティに行ってみるしかない。なんだかんだ不満をいって、イザという時にたよってしまう所が我ながら調子がいい。
ついてみると、今日はフロントにゴロ寝している輩の姿はなく、40代くらいのおばさんがなにやら帳簿らしきものに目をやっていた。おそるおそるホテル「ピタ・マハ」に迎えに来てくれるよう連絡してもらえないか頼んでみると、あっさりと快諾。
ここらへんの観光業にたずさわる方々は横のつながりがいい。同業だからといっていがみあうような雰囲気など感じられず、そのあたりはクールなのかの暢気なのか、いづれにしても旅行者としては気楽なのである。
やがてピタ・マハの迎えがやってきた。例によって夢のように白いワゴン車から月光仮面のような白装束のお兄さんがあらわれる。深夜だというのに嫌な顔どころかニコリとほほえんでの対応に心の中で手を合わせた。