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_ふじたかつゆきの
_バリ島・ロンボク島

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第12話 9日目昼から10日目朝


 ホテルピタマハのフロントによれば、今夜はご存じバリ島名物ケチャダンスがおこなわれるという事だったが、夕方になってもそんな気配はない。やっぱりなという感じだけれど、有名なケチャを今回の旅ではもう見るチャンスがなくなってしまって少し残念だ。
 さて、特にやる事もなくなってしまったので、またぷらぷらと街を散策する事にした。あてもなくブティックや土産物屋をひやかしてまわる。
 そうやってダラダラと歩いていると、ただの広い草原に見えるサッカー場辺りにさしかかった所で、突然、バリっという破裂音がきこえた。電柱にたよりなく張られた電線から火花が散っている。
時節がら一瞬テロかと思ったが、単純に老朽化が原因で電線がスパークしたようだ。近くの住民もちらほらと顔をだしているが、あまり驚いている様子もなくのんびりと見物しているふうだ。
 脇道に入ると、ちょっとおしゃれな雑貨店が並んでいる通りになった。
 小さな画廊をみつけて中に入る。狭い店内では、ポストカードサイズの絵から、立派な額に入った大きな本格的なものまで、有名無名の作家をとわずトコロ狭しと並べられていた。もちろん印刷なんてものではなく、肉筆1点ものばかりだ。
 バリ絵画にはそのタッチにいくつかの分類があって、個人的には細部まで描き込みがほどこされた古典的なタイプの絵が見たいと思っていた。もし買うとなれば大きな絵はさすがに値がはるし(といってもその品にしては安いんだろうけど)、第一持ってかえるのにも難儀しそうなので、小さなサイズの絵を中心に物色させてもらう。パラパラとやっているとなるほどねーっと声をあげてしまうくらい細密で美しいものもあれば、「バンザーイ、無しよ」といいたくなる作品もある事に気付く。つまりはごちゃまぜなのだ。ここでも「ほしいものが価値のあるもの、価値に対して価格も人それぞれが決めれば良い」というわけだ。きっとアートなんてものはそういう方が正しいのだ。最初から1枚ウン百万、ウン千万円なんて値札がついている絵はいくらなんでも高すぎるという気がするけど、どうでしょうかね? 
 なんて事を考えながらしばらく一人でぷつぷつ言っていたけれど、いづれあまり持ち合わせもなかったので、明日また来るよといって店を出る。散らかすだけ散らかして買わないというね。
 次に陶器のお店に入った。一見しただけで品の良さがわかり、この店は当たりだと直感する。
 お皿や急須にカエルやトカゲなんかの人形がくっついているものだとか、蓮の葉の形をした皿だとか、全体的に装飾的なものが多い。どれもこれも奇妙でかわいく、それでいてシックだ。失礼かもしれないが、実用面をあんまり考えていなさそうな所が潔い。
こここそ明日軍資金を握りしめて絶対にこなければと思う。

 日が暮れると本当に暗い。いつにもまして暗いと思ったら、どうやら昼間の電線事件で、まだ明かりがつかない所があるためのようだった。
 今日はタイ料理のレストランで夕食とする。店に入っても暗かったが、こちらは演出なのだ。
丸テーブルの2人席に座ると、ヨーヨーマ的な 知的な雰囲気の店主らしき男がグっとスマートにメニューをさしだす。こちらもまけじとグッとサイケデリックな目つきで、大きなココナツの実をくりぬいた容器にはいったタイ・カレーやトムヤムクンなんかを注文した。
 しかしトムヤムクンをはじめて食べた(飲んだかな? )がたいしてうまくもないね、あれ。これなら某生活感のない夫婦によるCMでおなじみ、野菜にピッタリ「サッポロ一番塩ラーメン」の粉末スープの方が美味しい気がする。舌がすでに科学調味料で麻痺しているためだろうか。まあ、おちーさんはどれもうまいうまいと食べていたし、この店の味付けが自分にあわなかっただけだろう。でないと、食べた事のない(コンビニにおいてあるようなのは別として) 世界三大スープの残り「ふかひれスープ」と「ボルシチ」の味も疑わざるをえない事になり、それはまだ見ぬうまいものへの夢が減ってしまうのでとてもさびしい。

 ホテルピタマハに戻り、荷物のパッキングをはじめた。
このキテレツで愉快な旅もいよいよ明日が最終日なのだ。いろいろな事があったなあ、とぼんやりしながら、ガムテープをベッドの上で切っていると、なんとシーツまでちょっぴり切ってしまっていた。さてこんなときどうするか。ムウ、といってシーツをくしゃくしゃにして、そのシワの渦に切れ目をのみこませてしまう事にする人もいるだろう。そんなことでいいのか! なるほど。前より良くなった気さえする。
 己の悪しき業を洗い流すべく風呂にはいる。前にも書いたが露天風呂なのだ。おもえばウブドに来てからあっちこっちと駆けずり回り、ゆっくりこのホテルを利用したという実感がない。図書館なんかもあったのになあ。せめて備え付けの小瓶に入った泡風呂液を全部ぷちまけて、ゴージャスな気分にひたる事にする。
 湯舟にぷくぷくと泡がたってきた頃、急にザーっと強い雨が降り出した。露天といっても、傘のような廂がついているので問題は無い。かえってオツなもんだ。
 熱帯にはやはり雨が似合う。強くなる緑のにおいと雨音にのみこまれてぼんやり湯につかっていると、さびしいような暖かいような、少しくすぐったい気持になった。

* * *

 翌朝、ピタマハの人に今日の予定を聞かれ、画廊にいくのだというと、よい店があるのでつれていってくれるという。最後まで親切なのだ。
 そういえば書くのを忘れていたが、ジャムウというバリ島の伝統薬の店にもつれていってもらった。ジャムウというのは薬といっても正露丸のような形で、ちょっと漢方のような味がする得体の知れないやつだ。効能も風邪だとかハライタなんていう代物ではなくて、ちなみに我々が買った薬でいうと「あたまが良くなる薬」だとか「筋肉マンになる薬」「美人になる薬」等都合の良い品々だ。漠然としていてイカしているでしょう? パッケージも頭の良くなる薬だったら大学帽をかぷった人だったり非常にうさんくさい。ジュースのような液体バージョンもあるらしいけど、なんかさらに危険そうだよね。
 話を戻そう。つれていかれた画廊はとても立派だった。美術館といってもいいくらいだ。すぐに中から清潔感のある白い衣装を身にまとった、端正な顔つきだが鼻毛が異常に生育している店の青年が現れた。
 店構えが立派なだけあって、中に入っても飾ってある絵はドデカくてたいそう立派なものが多い。せっかくなのでゆっくり見物したい所だけれど、最終日という事もあって時間もないので、細密画や蓮の苛の絵で小さいサイズのものはないか、と質問してみる。すると端正な顔つきだが鼻毛が異常に生育している青年が、ガッテンだとばかりにそれらしきものを数点あつめてきた。さすがピタマハおすすめだけあって、なかなかに良い品ばかりだ。蓮の絵など大きくも小さくない絶妙サイズで気に入った。
 その他ライステラスにサギが飛んでいる細密画等数点を購入した。自分が絵描きだから言うわけじゃないですが、絵を買うっていうのも気分のいいものですよ、みなさん。
 値切ってみると、朝1番のお客なので特別だよ、といっていくらかまけてくれた。きっと2番目の客にもなにかうまいセリフをいうんだろうな。

 次に陶器の、今度はちゃんと昨日の店に向う。沢山買ってしまいそうだったが、絵よりさらに持ち運びが大変なので、厳選していくつかの皿や急須等を購入した。こんなの日本で買ったらめっちゃくちゃ高いだろうが、たしかみんな数百円とかで激安であった。
 こちらはお会計の際、おまけで無気味な顔つきの赤ん坊のような形のお香立てをつけてくれた。あたまに穴があいていて、そこに線香をつきさす。

 いよいよピタマハを後にする時がきた。
チェックアウトをしていると、あの責任者らしいホテルマンが現れて、
「マタ来年アイマショウ」
といった。
 走り出した車から振り返ると、夢からさめる様に、あの素晴らしい部屋やプールがどんどん小さくなっていく。
 とうとう米つぶくらいになっても、ホテルマンはやっぱり来た時と同じように、フワリフワリとした動きで手を振ってくれているようだった。

 さあ次回はついに最終回。
 ここまできたら最後まで読むしかないでしょう。
 それでは、また。


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