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_ふじたかつゆきの
_バリ島・ロンボク島

第1話 第2話 第3話 第4話 第5話 第6話 第7話 第8話 第9話 第10話 第11話 第12話
第13話 最終日/エンディング


 空港に荷物を預けてマクドナルドでスパゲティーを食べた。日本にはないメニューなので迷わず注文したのだけど、予想の通りあまりうまいものではない。これならロンボク島の空港に併設された食堂のほうがまだうまい。(蛍光っぽい妙な色だったけれど)
 最後の予定は日本からnetで予約をしていたエステ「Lotus club」。場所はウブドとは逆方向に南下してヌサドゥアという場所までの途中あたりで空港からも近い。送迎も可能なので帰国前の予定としてはベストだろう。
クタのデパート前で店の車と待ち合わせをして「Lotus club」に向った。

 綺麗な店構えだ。店員さんもズラリとならんでおでむかえの大名気分。礼儀を重んじる感じが日本人に好まれそうだ。(なにせバリの店員さんは、さぼってんじゃないの? という場面が多いかったからなあ。)飲物をすすりながら、店長らしき男の説明を一通り聞くとマッサージルームに移動する。
 イスに座ってフットバスにくるぶしあたりまでつかると、ようやく落ち着いてまったりとした気分になってくる。そんな世話をマッサージ師はいやがるでもなく、さりとて笑うでもなく事務的にこなしていく。しかしこれまで数回エステを体験してきたが、はじめて女性のマッサージなのだ。まあいままでの素っ裸になるマッサージとは違うのでどっちだっていいのだが、ひざまずいた女性に足の世話をやいてもらっていると、恥ずかしいような申し訳ないような気持ちになって、「あっごめんなさい、いいです、自分でやります」なんていいそうになる。自分でやったら意味がないわけだけれど。
 ほどよく血行がよくなった頃、足ツボマッサージへと移行する。
マッサージねえさんは例によって実に淡々と作業をはじめるのだが、そのツボが体のどこに効果があるのか、いちいち
「コジョウセーン」だとか
「カンゾー」だとか
自分に問いかけているかのような小さな声でつぶやきながら押していくのが、なんだかおかしい。
 それにしても足ツボというとよくテレビでタレントがあまりの痛さにギャーギャーさわいでいる所をみるが、このマッサージはまったく痛く無い。西伊豆は土肥温泉の花時計にある足ツボ石の道のほうが数倍痛い。これは健康な証なのか、それとも手抜きなのか。私が健康なわけはないし、さりとて疑うのも悪い。ここはものすごいテクニシャンという事にしておこう。
 料金はフットバスとテクニシャンによる足ツボコースで3千円くらいだ。高いか安いかはみなさんの判断におまかせいたします。

 もう結構な時間になってきたので、最後の晩餐としゃれこむ。
「Lotus club」の店長さんにこの辺にいいお店があったら、空港ではなくそこまで送迎してほしいと頼んでみると、悩むふうもなく了解してくれた。きっとこんな注文をつけてくる客用のおきまりの店があるのだろう。紹介料などもらっているかもしれない。失礼、旅行中はどうもうたぐりぶかくなる。
ともあれスタッフの運転する車にのってそのレストランに向った。

 到着した店は浜辺であった。波打ち際にテーブルを並べてシーフードバーベキューなどいただくという大変こじゃれた演出なのだ。基本的にはギリメノ島での食事スタイルとかわらないんだけれど、暗くなるにつれ浮かび上がる空港や街の灯が港横浜ロマンテッィコ・ナイトでよりゴージャス感がただよう。経営者はこのロケーションにまかせて設備投資が少なくて済むのできっとホクホクだろう。
 バリの南の方は金持ちが似合う街(いってみればシンガポールみたいな)なせいか、客層も老夫婦や、家族づれなどで品がよく、落ち着いたムードであるのもいい。
 店のシステムは、入口に並べられているシーフードを自分でチョイスすると、いつもの辛いソースがかかったバーベキューとなって運ばれてくるというお決まりのパターンだ。
 ウェイターはまだ十代といったところだろうか。愛想がよく日本語もなかなか達者なのだ。聞けば驚くことに独学らしい。ご両親は農業をされているとの事だった。そこにはなにかドラマがあるのだろうな。きっと。
 料理が運ばれてくるあいだ、日の暮れかかった藍色の空に飛び立つ飛行機を横目にビールをあおっていると、それはまるで旅番組のエンディングみたいで、
「さーいかがでしたか? 今回の旅は?」
なーんてセリフが浮かんでくる。
そうやってぼんやりとフワフワとしながら、最後の食事をゆっくりと堪能させてもらった。

* * *

 空港では、あまったお金(ルピア)を使いきる買物大会となった。
 おちいさんは欲しかった香水を見つけたまではよかったが、残金がほんの少し足りない。ねぎろうと試みていたが、空港の免税店では無理なのであった。店員をうらめしそうににらんでいるおちーさん。心なしか何か呪いの言葉をつぶやいている気がした。
 しかしどうもいざ買おうと思うとなかなかこれだ! というものが無い。フライト時間のせまる中セカセカと歩き回りようやっといくつかの品をゲットした。2つほど紹介すると、まずウブドの演奏合戦で感動した「ジュゴク」のCD(帰国後聴いてみたけれど、やっぱり生とは違うなあ。)、それとウッドカービングの蓮の花。ウッドカービングというと果物がすぐ浮かぶ。それ以外でも蓮の花は見た事がないので、ちょっと高かったのだけれどおもわず奮発してしまった。組み立てると高さ60cmくらいになって、かなり迫力があるのですよ、これが。

 いよいよ帰国の飛行機に乗り込む。
 オーストラリア旅行も色々あったけど、今回の旅はもっと濃かったなあ。ロンボク島からギリメノまでの道のりは恐かった。ウブドの演奏合戦、迫力だったなあ。色々見たし食べたし出会いもあった。ゆったりも適度なハラハラもあった。
よい国だったな。不思議な所だった。また来る事があるだろうか...。
 来た時の飛行機では、きっと油断をしたらヤられるとばかり鬼のような顔をして荷物をかかえていたにちがいない。今はつきものが落ちたように、ただ安らかに眠りに落ちていく。

- エピローグ -

 そしてやっと時間軸は現在に追い付く。
 あれから世界は、ビールスや寒い夏、南や北の物騒な男なんかに、かわるがわる長い事脅かされている。自分にできる事といえばせいぜい手を洗う事くらい、あとはただじっと見守るだけ。
「この夏の海外旅行者数も少くて、家でゴロリの夏休みが多くなる」とTVの男が予想する。
昼ごろ起きてビデオとバターしょうゆのポップコーンとか、近所の定食屋「一休」で瓶ビールとメンチカツ定食なんていう休日。それもわるくない。

 小学校の頃からどこか違う場所にいってみたいという願望があった。夏休みともなれば、1人知らない方へとどこまでも歩いたものだ。花火にみとれて夜おそくなり、家族に説教されたりもしたっけ。
 さあ、私はもう出かけます。
「川口浩ほどのスリルはいらない、ほんの少しの冒険があればいい...」
 広げた世界地図をなぞる指先は、マレーシア、スリランカをこえて、ダイポール・モード現象まっただ中の小さな島々の上で止まった。
 そう、次の目的地はインド洋の真珠、モルディブ共和国。
 予約はOK。あとはバックッパクに荷物をつめこむだけだ。
 かくして私の顔はまた、鬼へと近付く。

(鬼ネシア紀行 完)

読んでくれた皆さんへ
稚拙な長文におつきあいいただき、ありがとうごさいました。
ふじたかつゆき


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